第3991冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

-できない理由探し部下

 

業務のレベルアップや見直しを訴えると、必ずといっていいほど、出くわすのが「できない理由探し」に走る人だ。得意なのは、「時間がない」「人が足りない」という言い訳。リーダー職員として長年の経験がある人も、部下が発するこの言い訳には一瞬怯んでしまう。ギリギリの人員配置であることは事実だし、時間があり余っているわけでもない。

 

が、「時間がない」「人が足りない」から無理な注文は出せないと白旗を揚げて退散するのが、リーダー職員としてとるべき選択であろうか。答えはノーだ。もし、改善しなければならない重要な案件があるのであれば、こうした声に安易に屈してはならない。

 

そもそも、限られた時間のなかで、業務を行うことが求められるのは福祉の業界だけではない。人員配置について基準をクリアしている状態であるなら、「人が足りない」という言葉に簡単に屈する必要はない。今や、どのような業種、業界もギリギリの人員配置のなかで業務遂行がなされている。しかし、他の業界では改善が必要な案件であるとき、ギリギリの人員配置で一杯一杯だから、何もしないで放置することなどあり得ない。福祉の業界でも、知恵を絞り、工夫をして、改善に向けた時間を確保する。そのうえで最善の解決策や改善策を立案し、実行に移していくことが求められているのである。

 

では、いったい「できない理由探し」に陥っている職員にどう向き合えばよいのだろうか。

 

心を動かすには、なぜ改善に取り組むのか、丁寧な説明が必須条件となる。重要なのは、“なぜ”という部分。部下が納得できるよう、わかりやすい言葉で丁寧に説明する。今、改善に向けて行動を起こさなければ、どのような事態が発生する可能性があるのか、説明をする。例えば、こんな具体に。

 

「この間、ご家族から、日中活動についてやることもなく、ラウンジの椅子に座っているだけの時間が長すぎる、とご指摘を受けました。今回は要望という形で、ご家族の口調は穏やかでしたが、何も対応をしないと苦情に発展する可能性もあります。この段階で速やかに対応したいと思っています。それには皆さんの力が必要です。ぜひ力を貸してください」。

 

協力を呼びかけたうえで、「まずは実現可能な取り組みに着手しましょう」と提案する。最初から高いレベルを要求すれば、尻込みして、「できない理由探し」の姿勢に戻ってしまう恐れがあるので、慎重を期す。最初の一歩としては、ちょっとした工夫とアイディアでクリアできそうな取り組みから始める。ほんの小さな一歩のように感じるかもしれないが、そんなことはない。できない理由探しに奔走し、何もしないで終わっていた状況と比べれば、雲泥の差だ。成功体験を積み上げていけば、次のハードルに向かう自信も生まれる。

第3990冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

-陰口大好き部下

 

陰口は本人がいないところで、その人の悪口を言う行為を指す。もしリーダーである自分が陰口の対象になっていることがわかれば、心穏やかではいられない。不安にもなるし、復讐心に駆りたれられる場合もある。

 

ただし、リーダー職員はその思いに振り回されてはならない。復讐心は人の判断を誤らせる。よい結果をもたらすことはまずあり得ない。

 

そもそも陰口は本人がいないところで示されるものだ。よって、本人にそれが伝わってくるのは「伝聞」である。例外は、その場面が録音、録画されたものを入手したケース、あるいは、隣の部屋で実際に漏れ聞いてしまったケースくらいだ。多くは、「伝聞」で知り得たものである。

 

誰かが、あたかもその場を再現するような形で、「こんなことは言っていたよ」と耳打ちしたとしても、それがありのままの事実を語ったのか、聞き手は判断できにあ。あくまでも、その人が見聞きしたものを思い出しながら描写したものに過ぎない。そこに、その人による解釈が入る。

 

やっかいなのは、伝聞で解釈された事柄は、事実よりもオーバーに表現されるケースが多い点。だから、陰口が耳に入ったとき、人は怒り心頭の状態になりやすい。陰口のこうした特性を理解し、あえて冷静に向き合う。一時的に気持ちが動揺し、怒りに燃えても、伝え聞いたことが事実とは限らない。あくまでも、把握が可能なのは、自分に対して、どうやらマイナスの言動があったようだ、というところまでだ。

 

では、何もしないで黙って見過ごすのか。私はノー・リアクションをすすめるつもりはない。むしろ、積極的な行動に出ることをおすすめする。とはいえ、陰口に対するアクションではない。あくまでも、その人に対するアクションを起こすという意味だ。

 

もし、これまで陰口を言っている(と思われる)部下とのふれあい、コミュニケーションの機会が少ないようであれば、意識して増やすようにする。その際のポイントは

感謝とねぎらいとリスペクトだ。

 

会話のなかに、その職員を大切にしているという気持ち、いいところを評価しているという思い、感謝やねぎらいの気持ちなどを、ふんだんに盛り込むようにする。「この前はありがとうございました」「この前は本当に助かりました」「この前、こんな光景を見て本当に嬉しかったです」といったイメージの話を、意識して盛り込むようにする。

 

なぜか。感謝とねぎらいとリスペクトの気持ちが伝えられると、その人を影で攻撃するのは難しくなるからだ。何らかの理由でマイナスの感情や敵対心を抱く部分があったとしても、今、目の前にいるその人が、自分を認める姿勢を見せてくれると、攻撃モードは薄らいで、陰口攻撃を仕掛ける気力は失せやすくなる。

第3989冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

 

-「できている」と思い込み部下

 

実は十分に業務がこなせていないのに、「できている」と思い込んでいる職員と向き合う際には、その職員は何ができていて、何ができていないのか、整理し見極める作業から始める必要がある。あいまいなとらえ方では、業務のレベルアップにつながるような的を得たアドバイスができないからだ。指導する立場にあるリーダー職員は、まず、この重要なポイントをしっかりと押さえておかなければならない。

 

リストアップ後は、優先順位を決めて、「これは何をおいてもできるようになってほしい」業務に関して、どのレベルアップまでを求めるのか、ゴールを示す作業に取りかかる。

 

これは極めて重要な取り組みだ。なぜなら、「できている」と思い込んでしまう職員の多くは、ゴールの設定を間違っているケースが多いからだ。何が、どのように、どこまでできれば、「できている」と胸を張れるのかわかっていないことが少なくないからである。

 

もちろん、事前に把握するといっても限界はある。その場合も、可能な限り、情報収集し、あらかじめ、どの部分ができていないのか目安をつけるよう努力する。

 

そのうで、本人と向き合い、話し合いをする。本人の見解に耳を傾ける。「できていない」と思われる業務を、本人が「できている」という認識を示している場合は、状況を詳しく確認する。具体的にどのような手順や方法で、業務を行っているのか説明してもらう。介護業務などの場合は、実際に“演じて”もらう。リーダー職員を利用者に見たてて、いつもの手順や方法を見せてもらう。不十分な点にリーダーが気づいた場合は次の手順で修正する。

 

①不十分な業務に関して正しい手順と方法を手本として見せる。

②見せたうえで、本人にロールプレイの形で実演してもらう。

③手順や方法に問題がある場合は、ピンポイントに修正点を指摘する。同時にどこをどう修正するか、手本を示しながら教える。

④十分なレベルができるようになるまでチャレンジしてもらう。

⑤できるようになったことを確認し、終了とする。

 

このような取り組みを通して、着実に業務が「できる」業態になるようサポートしていく。

 

事務系の業務に関しても手順は同じだ。連絡ノートの書き方が不十分な場合は、まずお手本を見せる。続いて、本人に書いてもらう。不十分なところは指摘し、修正するようアドバイスする。コツをつかみ、他の人にも伝わる連絡ノートが書けるようになるまで、根気強く指導する。

 

指導の際のポイントは、まさに、この根気強くがポイント。急がすと相手は焦る。焦ると、うまくできることも、できなくなる。自身喪失の状態になり、学ぼうという気力がうせてしまう場合もある。そうならないよう、「ゆっくりじっくり」を心がける。

 

指導に当たる際に、最も重要なのは、「どうしてもこんなに簡単なことができないのか」という姿勢を絶対に示さないという点。少しでもその姿勢を見せると、相手は責められていると感じる。「育てたい」という指導者(リーダー職員)の思いが素直に受け止められなくなる。成長の妨げとなるので、「どうしてこんなこともできないのか」という姿勢は厳に慎まなければならない。

 

第3989冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

-面腹背部下

 

面従腹背とは、表向きは相手の言うことに従う姿勢を示しているが、心の中では「従わない」という思いを強く抱いている状態を指す。表面上は「信頼しています」との姿を示しているが、裏の顔は全くの別人。「あなたなんか嫌い。少しも信頼していない」という思いを抱いている。意見、提案、指示については、「従う」態度を示すが、それは表向きだけ。心の中では、「ろくでもない意見」「そんな提案断固反対」「誰がそんな指示従うか」という思いを抱いている。

 

表舞台ではサポーターであり、従順なフォロワーだが、裏舞台では、トレーター(裏切り者)といえるような態度を示す。表舞台ではあまりにもよい表情を見せるので、裏切りといえるような言動に気づくまで時間がかかる。気づいたとしても、確証を得るのは至難の業。あくまでも裏舞台での発言なので、現場を押さえることは極めて難しい。

 

しかし、解決の糸口はある。明確な指示や提案に対して、「はい」と言ったのに、行動を起こさずに終わった点は明らかにできる。この部分を突破口にして、行動をあらあtめるよう働きかける。「はい」と言ったことは必ずやってもらう。表舞台で面と向かって従うといったことは、必ずその通りにしてもらう。そんなプレッシャーを相手にかけることができる。

 

続いて、取り組んでほしいのは、自分の行動が、相手を面従腹背の境地に追い込んでしまっていないか、点検し振り返る作業だ。原因が、リーダーである自分にある可能性があるからだ。意図的でないとしても、相手を力で従わせるような言動を示していた。従わないとまずい、と相手に強く思わせるような何かを示していた。リーダーに疑義を唱えると、裏切り者扱いするような態度を示していた。こうした態度が部下を面従腹背の状況に追い込んだ可能性がある。

 

だからこそ、果たして自分が示した言動や態度のなかに問題がなかったか、自己チェックする取り組みが絶対に必要になる。次に示す問いを自分自身に投げかけ、精査する取り組みに着手しよう。

 

自分の考えを押しつけるような言動を示していないか。

自分とは異なる意見を許さないという姿勢を示していないか。

自分の提案や考えに対して、質問を許さないという姿勢を示していないか。

 

これら三つの問いのなかに、万が一、「はい」と答えるものがあるとすれば、すぐに改善に無得k手行動を起こす。もし、リーダーとして不適切、不十分なところがあることに気づいた場合、改善に向けて確かな一歩を踏み出す。こうした姿勢を示すことが求められているのだ。

第3988冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

指示を出してもわかっていない部下

 

 リーダー職員の指示に「わかりました」と言っているが、その通りに動かない。なぜこうした事態が発生するのか。原因として考えられるのは次の二つだ。

 

一つは、リーダーとの関係性に何らかの問題が潜んでいるケース。もう一つは、本人の理解が不十分でわかっていないケース。

 

前者のケースの場合、リーダーは積極的に関係性の改善に努めなければならない。具体的には次のような取り組みに着手していく。

 

指示がわからないとき、気軽に「実は、よくわからなんですけど」と言えるような関係づくりに努める。

 

部下と相対するとき、どのような表情を見せているか、またどのような言葉遣い、態度、姿勢を示しているか、点検する。問題がある場合はただちに修正する。

 

自分のちょっとした物腰のなかに、相手を不安にしたり、萎縮させたりするような言動がある場合は、速やかに修正する。

 

関係性の改善に取り組んだうえで、プロフェッショナルな職業人としての自覚を促すようなアプローチもあわせて行う。部下は指示を理解しないままでいると、指示に従った行動をとることができない。利用者に迷惑をかけるという事態が発生することがあるから、「わからない」状態をそのままにしないのはプロとしての鉄則だということを明確に伝える。

 

後者の、本人は「わかった」と思い込んでいたが、実は「わかっていなかった」ケースは、次にような取り組みが必要になる。

 

部下に対して出した指示が理解しやすいものとなっているか、確認する。わかりにくいものである場合は、伝え方を工夫する。「何を」「いつ」「どのような手順は方法で」「どのレベルまで行うのか」、相手が具体的にわかるような形で指示を出すようにする。

 

リーダーである自分が出した指示を、復唱してもらい、正しい理解であるか、確認する。

 

指示の聞き違いが多いにもかかわらず、指示内容をメモする習慣がない部下に対しては、メモを取るように伝える。例えば、「この点は大事なところなので繰り返します。メモを取っておいてください。そのほうが後で確認できますから」と伝え、確実にメモを取るよう指示する。

第3987冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

-口だけ立派な部下

 

口だけ立派で、行動が伴っていない人は他者から信頼されない。常識レベルのごく当たり前の話だ。口だけ立派な状態の人は、この当たり前のことが理解できない。なぜか。何か発言することだけが自分に任されたことであり、行動を起こす責任があるという点を、学んでいないからだ。

 

口だけ立派な人を、この状態から解放するには、次のような手順と方法で、行動を起こすよう促していくことが必要となる。

 

第一プロセスは、口だけ立派な発言があったあとに、具体化に向けた計画を立案するよう要求するというもの。例えば、「入浴介護について見直すべきだとずっと言い続けているんですけど、全然変わっていない。絶対変えるべきです」と、発言をした職員には、こう声をかける。

 

「私も、入浴介護の手順と方法は見直さないといけないと思っていたところです。ぜひ実行に移したいと思うので、具体的な計画を作成してもらえませんか。今日はいい考えを示してもらって本当によかった。具体的な計画は、来週の火曜日までということでお願いしますね」。

 

職員はいつものように、具体的な行動を示すつもりなく発言したのだが、そのままで終わらぬよう、具体案の作成をお願いする。ポイントは、まずは本人の意見を認めて評価する。そのうえで、依頼をするという手順。

 

具体的計計画を提出してくれたら、第二プロセスに取りかかる。計画内容について話し合い、修正が必要な場合は、アドバイスをしたうえで本人に計画実行の責任者となってもらい、実施するよう依頼する。例えば、こんな具体に。

 

「いい案を作ってくれてありがとうございます。善は急げというので、この案で来月から始めましょう。実施に当たっては、ぜひあなたが中心メンバーとなってください。新しいやり方なので、全体の流れがわかっている人が責任者になるほうがわかりやすいですからね。新しい入用介護の方法に関する打ち合わせは、来週の水曜日にしましょう。そのときに説明をお願いしますね」。

 

その後は、第三プロセスの計画の実施に進む。第四プロセスは進捗状況の確認。問題が生じた場合は修正案の立案、実施となる。こうした手順で、言ったことを行動に移す行動習慣をマスターしてもらうようにする。

第3986冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

-現場を牛耳るベテラン部下

 

この手の職員は、現場を思い通りに動かし、部署外(チーム外)の誰も口を挟めない状況を作りあげてしまうという特徴がある。現場を牛耳るベテラン職員の力は極めて強大で、ともに働く職員はベテラン職員の支配下に入るか、現場を去るかの二者択一の状況に追い込まれる。職場に残る選択をした者はすべて支配下に置かれるようになる。

 

一度、現場を牛耳られ、“鉄の軍団”ができてしまうと、実権を奪い返すのは容易ではない。奪い返そうという姿勢をみせるだけでなく、猛反撃をしかけてくるのだ。もし、あなたが実権を奪い返そうとするのであれば、奪還するまで、チャレンジし続けるという強い覚悟が必要だ。あきらめて退却してまうと、次回のチャレンジは極めて困難になる。首謀者は自信を深めるし、「軍団」のメンバーとなり手下となった職員集団の結束がより一層強くなる。その部署は彼らのやりたい放題となる。いつ、クレームが出てもおかしくないほど、低レベルの業務状況となる。

 

では、どうやって、事態の改善を目指すのか。方法はただ一つ。勝手なことはできない環境をつくりあげていくことだ。そのためには、施設長、中間管理職、主任などのリーダー職員間の結束が必要となる。“”鉄の軍団に対抗した、“リーダー職員チーム”を作りあげる。

 

続いて、組織が進むべき方向、守るべきルールを再確認する。特に大切なのは、基本的に接遇に関するルールの点検とバージョンアップ。やりたい放題の“鉄の軍団”は、接遇レベルが地に落ちているケースが極めて多い。自分たちのなかで作りあげた、勝手なルールや誤った価値観で業務をこなしている。

 

その部分を突き、改善を余儀なくさせるために、明確な遵守すべきルールを作りあげる。できあがり次第、全部署に業務命令という形で伝える。通達後、一か月経ったところで、全職員に自己評価をしてもらい、報告書を提出するよう指示を出す。

 

そのうえで、職員と面談。自己評価では「できている」としているのに、できていないところがある場合は、リーダー職員である自分の見解は違うことを伝える。基準を明確にすると、納得してもらいやすくなる。軍団の首謀者であるベテラン職員は、徹底抗戦の姿勢をみせるかもしれない。その場合は、軍団の分裂に集中する。軍団に降っている職員であっても、管理監督職員が、一対一で話し合っていけば、「このままではいけない」という方向に導きやすくなる。一人ずる順番に考えをあらため、軍団を去るよう促していけば、首謀者の求心力は低下する。

 

最も重要なのは、現場を牛耳るベテラン職員を支える軍団メンバーを減らしていくこと。仲間がいなくなれば、傍若無人な行動は示せなくなる。時間はかかるかもしれないが、「あきらめない」「挫けない」を合言葉に、チェレンジしていくことが期待されているのである。